被災地から学ぶ、保育を止めないための“良い避難訓練”

日本では、阪神淡路大震災や東北大震災などの命と直結する大規模震災が発生しました。
また、近い将来、南海トラフなどの大災害は100%に近い確率で起きると予想されています。

いざという時、どれだけの園が冷静に対処することができるのでしょうか。
現在行っている避難訓練の中で、どれだけ本番を意識した準備ができているのでしょうか。

それぞれの園で災害対策及び避難訓練がなされていますが、
日々の業務や責任範囲が広い先生方にとって、防災に関する認識や意識が低くなっている場合も少なくはありません。
また人手不足という業界としての根本的な問題から、緊急時における対応が遅れることをはじめ、状況に応じた対応方法を策定する時間が不足している園もあるのではないでしょうか。

そこで、子どもたちの安全と保護者様に安心していただく環境を多くの園と一緒につくるべく、現場の先生方の声や被災地で感じたことを元に、実際に行われている避難訓練事例や明日から活かせるノウハウをお伝えします。

目次

昨今の災害

2000年以降の自然災害を見ると、台風被害や地震災害、洪水・土砂災害等、毎年、多くの自然災害が発生しています。中でも、多くの方が対策の必要性を強く感じているのは突然やってくる地震ではないでしょうか?

日本全国で見ると1年間で人が揺れを感じるような地震は1,500回以上発生しており、多い年には5,000回を超える事もあります。平均すると1日5回以上の地震の中で我々は暮らしているという事になります。

避難訓練の重要性

地震はいつ発生するか分からない自然災害だからこそ日頃の訓練が重要です。
わたしたちにできることは「被害の抑止」と「被害の軽減」です。
被害の抑止とは、そもそも被害が生じないように講じる対策です。
園のおかれている環境にも依存しますが、周囲に川がある場合は川の改修をする事や建物の耐震化などを意味します。
そして、被害の軽減とは、避難訓練に代表される、被害の拡大を防ぐ被害軽減という意味合いで「減災」ということです。

『はっきりしたことは 事前防災の大切さだ』

この言葉は、佐藤敏郎先生のお言葉です。
佐藤先生は、震災当時、女川町で中学校教諭をされていたときに被災されました。
隣の石巻市では大川小学校で児童108名中 74名が犠牲となり、この犠牲となった児童の中に佐藤先生の次女も含まれていました。
佐藤先生は震災を辛い経験で終わらせず、起きたことを検証し、対策を考え、伝承し、思いを共有する講演を全国で実施されています。

被災された方の実際のお声からも事前防災の重要性を伺うことができます。

現在実施している避難訓練に不安はないですか?

ここまでコラムを読み進めていただいた皆さんは、今一度現在実施している避難訓練を思い返してみてください。
どのような内容で、どのような流れで、避難訓練をされていますか?

避難訓練の内容について「毎回決まった手順でやっています」という声をよく聞きます。
そのようなお声を簡単にまとめると、“身を守る→避難開始→点呼”といった手順を毎回されていらっしゃるようです。

もちろんしっかりと実施されている園もいらっしゃるとは思いますが、毎回決まった手順で避難訓練を実施されているという園の先生方からは

「この内容で大丈夫か?」
「いざという時に、子どもたちを守れるのか」
「何を基準に避難したらいいの?待機したらいいの?この場合はどうしたらいいの?」

といった現状の避難への不安のお声を聞くことがあります。

このような不安から現状の不安を解決したいけれども、「自治体からのマニュアルはページ数が多すぎる」「毎月の訓練で手が回っていない」「普段の保育が忙しく時間が取れない」といった理由で中々実践できていない先生方も多いようです。

それでは、どのような避難訓練を実施するのが良いのでしょうか。

“良い避難訓練”とは

まずは、「良い避難訓練とは?」何かを思い浮かべてみてください。

皆さんの頭に思い浮かんだものは全て正しいでしょう。
今回は、「良い避難訓練」について、2つの例を紹介します。

まず一つ目が、いざという時に職員と子どもを守れるということです。
子どもたちだけではなく、職員をしっかり守るということが結果的に子どもたちをしっかり守る事につながります。

そして2つ目が、どんなタイミングで被災しても対応できるということです。
これは過去の大きな地震を考えてみると分かりやすいでしょう。
東日本大震災はバス降園中の時間帯、またはお昼寝中の時間帯、2018年の大阪北部での地震は登園時間で園児の居場所を把握しずらい時間帯の発生でした。
地震はいつ起こるかわからないからこそ、どんなタイミングでも対応できるようにしておく必要があります。

2つの例は、当たり前に感じることかもしれませんが、その当たり前を掘り下げて考え、訓練まで落とし込めているかと今一度考えてみてください。

生きた避難訓練にするために今日からできる事

ここまで「良い避難訓練とは?」というお話をさせていただきましたが、生きた避難訓練にするために何を実践するべきかご紹介します。

やると決める

こちらも当たり前の事ですが、スタートする事が一番難しいです。
逆に言ってしまえば、決める事ができれば必ず良い避難訓練を作る事ができますので、このコラムを読んでいるこの瞬間からやると決めてください。

むしろ失敗していく

避難訓練で決められた内容を失敗しないように訓練をするのではなく、
いざ、災害が起きた時に失敗ができないからこそ、避難訓練で失敗を学び、改善を繰り返していきましょう。
失敗するからこそ、自分の園にあった対策が打てるという事を覚えておきましょう。

③すぐにできることを真似る

何をするにしてもそうですが、真似することが一番の近道です。
出来ている園のやり方を真似してください。
ただ、避難訓練は冒頭でもお話したように、園によって状況が変わるので、自園にあった内容に変えていく必要はあります。

避難訓練事例のご紹介

では次は、具体的にどんな避難訓練を取り入れていくべきかご紹介します。

避難訓練のゲリラ開催

自然災害はいつ発生するか分かりません。
ゲリラ開催の避難訓練も実施してみましょう。
ゲリラ開催とすると週間の設定保育内容が狂ってしまうというお声を聞くことがありますが、その場合は、実施週だけ決めて、-1日分で設定保育内容を決めると通常保育にも影響が少ないでしょう。

一番めんどくさい時間帯に避難訓練を実施する

これも①同様、いつ発生するか分からない自然災害への対策として実施すると良いでしょう。
「登降園時間だと園児数の把握が出来ない」「役割分担通りに動けない時どうすれば?」という皆さんは、保護者を巻き込み、誘導場所へ集める想定をつくりましょう。
役割は、幼稚園の場合は、学年別に決めると動きやすいでしょう。
保育園、こども園では早番や遅番などの決め方をするとどんな時に発生しても統一ルールで動くことができます。
また、この時、とっさに大声を出せる先生が一番重要です。普段から緊急時は声をあげようと話し合っておく事が大切です。

③毎回トラブルを起こす

例えば、怪我人が出たというシチュエーションを設定してみましょう。
応急処置の知識を普段から研修で受けていてもいざとなったら真っ白になるかもしれないという不安を感じる先生も多いと思います。緊急時に近くに看護師の先生がいるとは限りません。
訓練で1種類ずつでも最後まで処置を経験しておけば、土壇場での対応力が変わります。

ここでご紹介した訓練事例は、訓練では何度でも失敗しても大丈夫です。
失敗した、うまくいかなかったところが、いざという時に困るポイントです。
自園の訓練の必要性や弱みを知る為に、失敗してその対策を実施する。
この繰り返しができれば、良い訓練をつくれるようになります。

反省会は課題を出し合い、短時間で終了し、期限を決めてそれまでに対策案を先生同士で出し合えば、通常保育にも支障は出ません。
考えられる先生が増える事も実は大きな訓練になるのです。

まとめ

今回は、生きた避難訓練を実施する為に今日からできる事、そして実際の避難訓練事例をご紹介させていただきました。
既に自園で実施されていた方は引き続き実施していただき、分かってはいたが行動に移すことができていなかったという方は今日から、実施してみてはいかがでしょうか。

もしもの時に失敗してしまった…では遅いのです。

訓練でたくさん失敗して、その時が来たら適切に動くことができるように備えましょう。

この記事を書いた人

学生時代はキッズフォトスタジオにてアルバイト。
そして、だいすきな子どもたちの笑顔を守りたい!という思いで、園の防災を支えるニシハタシステムへ入社しました。
数多くの園長先生とお話しする中でお伺いした園業界ならではの課題や悩みを、少しずつ解決していけるよう発信していきます

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