保育園の火災予防と訓練方法について

藤實智子先生

保育園の監査指摘事項の中で、最も多いのが「初期消火訓練を毎月行っていない」というものです。

地震の避難訓練や水害の避難訓練と同時に火災訓練を行っている(行わなければならないと持っている)園がとても多いのですが、これは同時にやらなくても良いことを知っていますか?

実は保育園の中でも、初期消火の訓練のやり方がよくわからないという園は多いようです。

そこで今回は、保育園の火災予防と訓練方法についてお伝えします。

目次

毎月の火災訓練

児童福祉施設は、毎月避難訓練と初期消火訓練を行う義務があります。そのため、どの保育園でも実施していると思いますが、時々こんな質問をいただくことがあります。

「水害の訓練なのに、なぜか突然火災が発生するという設定を作って避難訓練をおこなっています」

これは、「初期消火訓練」を毎月行わなければならないことから、「今月は水害の避難訓練だけれども、ついでに火災も発生した想定にしよう!」という考えで設定されているようです。

しかし、実は 「毎月行う義務がある」のは初期消火訓練であり、「火災の避難訓練」を毎月実施しなければならないわけではありません。

ちょっとわかりづらいですよね。

この点を履き違えてしまうと、「毎月の避難訓練の中で必ず初期消火訓練を入れなければ!」と考え、本来起こりにくい想定での訓練になってしまうことがあります。

初期消火訓練は、必ずしも避難訓練と同時に行う必要はありません。たとえば、昼休みなどの短い時間を活用し、職員が集まれるタイミングで実施するのも良い方法です。

初期消火訓練は、避難訓練と同時に行わなくてもよい!

火災の発生場所

保育園の火災訓練では、「調理室からの出火」を想定することがよくあります。

しかし、実際には調理室以外からも火災が発生する可能性があるため、毎回同じ想定にするのではなく、さまざまな場所からの出火を想定した訓練を行うことが大切です。

たとえば、以下のような場所からの出火も考えられます。

・職員室(複合機の裏にあるコンセントのほこり、モバイルバッテリーからの出火など)
・園舎の裏などのゴミ置き場(放火の可能性)
・玄関の水槽(熱帯魚などの水槽は、漏電の危険性がある

これらのように、火災は思いもよらない場所で発生する可能性があるということを意識しておきましょう。

なぜ、このように違う場所からの出火の想定で訓練を行うことが必要なのでしょうか。

それは、「火災訓練のルーティーンを作らないこと」が大事だからです。

毎回「調理室から出火」という想定で訓練を行っていると、避難のルートがいつも同じになってしまいます。

もし実際に 調理室とは逆方向の場所 から火災が発生した場合、子どもたちが訓練通りの行動を取ろうとして、火元に向かって避難してしまう危険性 があります。

そのため、訓練のたびに異なる出火場所を想定し、状況に応じた避難経路を確認することが大切です。

初期消火ができず、大規模火災や爆発火災になった場合の避難のポイント

もし火災が大きくなり、大規模火災や爆発火災などに発展した場合に最も重要なのは、素早く安全に避難すること です。

普段の訓練で行っているように、
✅「おはしも」(押さない・走らない・しゃべらない・戻らない)を守る
✅ 防災頭巾をかぶる
✅ ハンカチで口を押さえて、屈みながら避難する
といった避難方法は、大規模火災では逆に危険になることがあります。

なぜ危険なのか? 火災で最も怖いのは「煙」

🔥 煙の広がるスピードはとても速い
→ ゆっくり避難していると、すぐに煙に巻かれる可能性があります。

🔥 煙には有毒ガスが含まれることがある
→ 吸い込むと 一酸化炭素中毒 などの危険があり、意識を失う可能性も。

🔥 煙を吸うと気道を火傷し、数時間後に呼吸困難になることも
→ もし煙を吸ってしまったら 自己判断せず、必ず医療機関を受診 しましょう。

では、火や煙が迫っている状況の場合には、どのようなことを注意すればよいでしょうか。

大規模火災の場合の避難のポイント

とにかくすぐに逃げる
防災頭巾をかぶる時間をかけない(その時間が命取りになることも)

煙を吸わないことを最優先に
煙の来ない方向へ逃げるハンカチで口を押さえても、ほぼ意味がない

逃げ遅れがないよう、人数を把握しながら避難する
→ 特に小さな子どもがいる場合、取り残される人がいないように 確認しながら行動する

初期消火訓練のやり方

初期消火訓練は、火災を発見した際に迅速に対応し、大きな火災を防ぐための行動を身に付けることが目的です。

火災を発見したら

STEP
大きな声で「火事!」と知らせる

どこで発生したかを明確に伝える

STEP
消火器を持ってくる

できれば2~3本準備

STEP
安全ピンを抜く
STEP
ホースの先端を持つ
STEP
レバーを強く握る
STEP
火元に向けて勢いよく噴射する

訓練のポイント

消火担当はいつも同じ人にせず、全員が体験できるようにする。

消防署の指導のもと、訓練用消火器を使った実践訓練を行うのもおすすめ。

まとめ

適切な初期消火を行うことで、子どもたちの命を守るだけでなく、園にある大切な物も守ることができます。

いつどこで火災が発生しても迅速に対応できるよう、職員全員が訓練を受け、予防策を徹底してほしいと思います。

火災予防の重要性は、日常的な対策によって火災を未然に防ぐことにあります。

この記事を書いた人

高校卒業後、女性消防官として都内の消防署に勤務。結婚を機に退職後、保育士の資格を取り、認可外保育所、認証保育所、認可保育所の園長を経て独立。
現在、一般社団法人保育の寺子屋代表理事として保育園の防災指導や保育士の育成、保育防災スペシャリスト認定講座等を行う。
2022年に保育士のための保育防災ハンドブックを制作、2023年2月 には保護者のための保育防災ハンドブックも制作する。

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